無題

ふと気付けば、半日眠って、シャワーを浴びていた。
春眠暁を何とやら。暁に眠ってちゃ仕方ない。
何が切欠で思い出したのか、中学生の時に後ろの席だったユはこう言った。
「暇だから学校来てんだよ」 それは勿論、冗談に違いない。
思えば俺は、学校に行く事を疑問に思った事は無かった。考えもしなかった。
これが去勢されている状態かどうかは知らない。 そういう事は、そういう難しい事を考える人に任せておく。
俺は、アトピーが最悪の症状になるまで、学校に行くのは楽しかったから、
何も考えず、「行くもの」として通っていた。 ただそれだけの事なんだけどね。
セビョクは日本人じゃなかった。でも俺は別に嫌いじゃなかった。 その事に、今、気付いた。
俺達が、俺達の先人が、何をしてきたか何て知らん。
お前等が、お前等の先人が、何をしてきたかなんて知らん。
もしお前が俺を憎むのなら、憎めばいい。
俺もお前が憎くなったら、憎むと思う。
民族と言う大きなくくりを見れば、間違いなく俺は嫌いだ。
民族と言う枠を外し、いち個人として見るなら、俺は嫌いじゃない。
随分と身勝手な意見だとは思うが、現時点での俺の考えである。

ただし、お前が何らかの神様を信じているってのなら、話は違ってくる。
俺は宗教って奴が嫌いなんでね。 その宗教をもとに何かを考えるなんて、まっぴらゴメンだ。
そういえば彼奴は、「だからこそ宗教家と話しがしたい」と言ってたな。

＊＊＊

順風満帆人生、と言うのがある。 いい高校、いい大学、一流企業と言う一連の流れ。
その中でも、その仕事（職場）に大きな苦痛を持つ場合は順風満帆とは言えまい。

運、と言うのは存在する。そいつは、絶対的なもので、どうにも出来ないものである。
どんなに足掻こうと、その運量の差と言うのは絶対にひっくり返せない。
小さな運の流れなら、自分で引き寄せる事も出来るだろうし、
ある程度の大きな流れに変える事も出来るだろうが、 その場に最初から存在する、
絶対的な運の前には、歯が立たぬのである。 順風満帆人生には、その絶対的な運が必要であると思う。
運だけで順風満帆等とは言わない。 そいつなりにした努力もあっての結果であると思う。
俺はそいつの努力も苦悩も知らないから、運量は多く見えるがな。
しかし、どんな努力をして、どんな苦悩を抱えていたかを知る事に意味は無い。
強運が憎いと思った事はあるか？俺はあるぜ。 俺にしたって、比較的運が良い方だとは思うが、それを上回る奴なんてザラにいる。 人間として許せないような奴が、そんな運を持ってたりすると尚更だ
飛んだ高さが高ければ高い程、墜ちた時には酷い事になると言うが、
運がよけりゃ大して酷い事にもならんだろうなぁ。 だから、もっと憎くなるんだけどな。
平気で人を傷つける事を言う様な奴が、そんな順風満帆人生を送っている。
俺はそいつの努力も苦悩も知らないし、知りたくもない。

あれほどに憎んでいたその男を久しぶりに見たが、軽い絶望を覚えた。
社会に出ると言う事は、人をこんなにも変えるのか、と。
おそらく、自分の力だけではどうにも出来ない絶対的な存在を知ったのであろう。
自分の知力、暴力、財力、その他の己の有する力では、どうにもならない存在。
彼はあからさまに丸くなり、攻撃性の無くなったそいつは、もう俺の知る男では無かった。
あれほどに、「彼」の滅亡を、社会的な死を望んだと言うのに、 その「彼」はどこにもいないのだ。
憎んだ男は、もう何処にもいない。 それもまた、運だと言うのだろうか。 俺だって停滞が趣味な訳は無い。
ちったぁ変わったと思ってる。 相変わらずと言えば相変わらずだが、５年前よりはいい男になったと思ってる。 その分、つまらない男になったとも思うけどな。どうしようもねーや。
俺みたいに生き方が雑な奴は、余計に気をつかって神経すり減らしていくだけか。
アイツが丁寧に生きてるかどうかは知らないし、知りたくもない。 もうちょっと、俺自身が、楽に生きたいんだ。 今が苦しい訳でも無い。辛い訳でも無い。 無いモノねだりなのは十分承知している。
だが、欲しいものは欲しい。 運、と言うのは絶対的に存在する。
疑問に思う予知は無い。存在しているのだ。 結果、俺は普通前後でしかない。